小説「海に沈む空のように」第41回・小さな町の老人ホームで開かれるコンサート

前回まであらすじ
 志賀昭雄は1年ぶりにバンドメンバーとして越前町の老人ホームでコンサートを開くことになった。事件をきっかけに東京で活動していたバンドからは脱退していたが、まさか転勤先の福井でバンドを再結成するとは夢にも思わなかった。コンサートは山間部の小さな町の老人ホームのイベントで行われる。昭雄は会場へと車を走らせた。なつかしい曲が車内に響いてきた。
 
 
 車から降りた志賀昭雄は深呼吸すると、りんとした空気を体内に吸い込んだ。気持ちいいと思う。青い空が近い。遠い山々には白い雪肌が見える。広い、ただ広いなあと昭雄は思う。
「すぐに分かった?」
 バンド仲間の岸田典夫が聞いてきた。
「ええ、GPSがあるから、迷いませんでした」
「そうだね。最近はGPSだから。便利になった」
「そうですね。でも、これが故障すると大変です。場所が頭に入っていないから」
「そう。ケータイも便利にはなったけど。その分、考えなくなったから・・・」
 キーボード担当の小林由紀子が言う。
「あ、おはようございます」
 昭雄が岸田の後方に歩いてきた由紀子に気づいた。
 「いい所ですね」
「山奥やから。ここは僕の生まれた所でもあるんですよ」
 岸田の言葉に昭雄が驚いた。
「岸田さん、ここの出身ですか」
 昭雄が聞いた。
「ええ。このホームから車で十分ほど行った所ですよ」
「今は僕の母親と兄貴夫婦が住んでいるんです」
「向こう側にあるのが陶芸館、その先には住宅があるけど。あの住宅で全国から来た陶芸家が住んでいるらしい」
 岸田が続けた。
「陶芸・・・か。福井だから越前焼だね」
 昭雄が言う。
「詳しいことは分からんけど、食器やら茶器を作っている。今度、時間がある時にでも来て一度、じっくりと中を見たらいいね。せっかくやから。今日は十時スタートやから、あと二時間あるけど、少し早めに音合わせした方がいいでしょう」
 岸田が福井弁と慣れない東京弁を交えながら話す。
「皆、久し振りだから。音合わせ早めがいいわ」
 由紀子がふざけてガッツポーズを見せた。
「志賀さんも久し振りだろうしね」ドラムの林が言う。
「そうだね。今日は自分の曲も披露するから・・・・やっぱり緊張するな」
 昭雄も身体を左右に動かした。
「車を正面の玄関に着けて楽器を運ぼう。志賀さんも楽器を運んで」
 志賀が言うとワゴンに戻った。
 他のメンバーもそれぞれワゴンに乗った。昭雄も自分の車に戻るとエンジンをかけ、車を発進させた。緊張しているのか、昭雄の心臓の鼓動が早まった。
昭雄たちは別館ホールで行われる年末のイベントにゲストとして午前十時から約一時間のライブを行うことになっている。別館ホールは本館の道一つ向かい側に建てられていた。まだ、ライブ開始までには余裕があった。
「機材を会場まで運んでセッティングだけしますか。本番が終わったら、懇親会に出てくださいって言われているんだけど。志賀さん、大丈夫?」
「ええ、いいですよ。それより本番をうまくやんなきゃいけないから」
「そうですね。ま、あんまり緊張してもいけないから。いつものスタジオで演奏しているような感じで」
 岸田が笑みを見せた。
「すみませーん。おはようーございます。間に合いました」
「じゃあ、先に荷物を会場に運んじゃおうか」
「音響関係は業者さんが、昨日にセッティングしてくれているから。あとは我々の音だね。リハだけ先にやりましょう」
「向こう側にあるのが陶芸館、その先には住宅があるけど。あの住宅で全国から来た陶芸家が住んでいるらしい」
岸田が言う。
「陶芸・・・か。福井だから越前焼だね」
「詳しいことは分からんけど、食器やら茶器を作っている。今度、時間がある時にでも来て一度、じっくりと中を見たらいいね。せっかくやから。今日は十時スタートやから、あと二時間あるけど、少し早めに音合わせした方がいいでしょう」
 岸田が福井弁と慣れない東京弁を交えながら話す。
「皆、久し振りだから。音合わせ早めがいいわ」
 由紀子がふざけてガッツポーズを見せた。
「志賀さんも久し振りだろうしね」
 ドラムの林が言う。
「そうだね。今日は自分の曲も披露するから・・・・やっぱり緊張するな」
 昭雄が身体を左右に動かした。
「車を正面の玄関に着けて楽器を運ぼう。志賀さんも楽器を運んで」
 志賀が言うとワゴンに戻った。
 他のメンバーもそれぞれワゴンに乗った。昭雄も自分の車に戻るとエンジンをかけ、車を発進させた。心臓の音が高まる。やはり少し緊張している。
「愛老ホーム」は本館と別館に分かれており、二棟併せて五十人程が入居している。昭雄たちは別館ホールで行われる年末のイベントにゲストとして午前十時から約一時間のライブを行うことになっているのだ。
 別館ホールは本館の道一つ向かい側に建てられていた。昭雄は車をホールの入り口付近に止めると再び深呼吸した。

98bc9351.png

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA