BOOK.43「福島県いわきの山に9万9000本の桜の木を植える。現代アートのスーパースターと、いわきのおっちゃんの奇跡を描いた『空をゆく巨人』」

 新年あけましておめでとうございます。皆様の御多幸を祈念致します。今年もよろしくお願い致します。
2018年は日本海側の大雪、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など災害が多い年でした。
 日本海側の大雪では長い時間にわたり交通機関が麻痺しました。とにかく冬の車道は危険で路面が凍結すると滑り、簡単に車が反対車線に飛び出し車内の人が事故死したりします。この年末にも3日間に1メートルもの大雪が降る地域も出ています。

 西日本豪雨の被害にあった岡山県真備町では現在も仮設住宅に住んでいる人が多く、12月になってようやく飲食店を再開したという所もあります。まさか家が雨の洪水に沈むなんて、数十年前までは映画の中での現実に過ぎませんでした。しかし、もう、想定外という言葉は通用しないほどに地球環境は激変しています。自然災害は二次災害も発生させ、北海道の地震では全道が停電するブラックアウトも発生しました。

 そして、誰もが忘れられないのが8年前の東日本大震災です。東北地方の太平洋沖で発生したマグニチュード9の地震は巨大な津波も発生させ、福島第一原子力発電所の事故が発生したことで死者は1万5896人、行方不明者2536人となるなど、多くの犠牲者が出ました。
何よりも福島第一原子力発電所の事故は放射能汚染、放射能廃棄物の処理問題という人類にとって被害が大きく、かつ永遠の課題を突きつけてしまいました。フクシマの問題は日本だけでなく世界の問題でもあるのです。

 東日本大震災が発生してからまもなく8年が経過しようとしています。この間、多くの人々が復興に向け尽力してきました。「空をゆく巨人」(川内有緒著、集英社)は、福島県いわき市内の山に桜の木を9万9000本を植えるプロジェクトを発足させ、山の一角に「いわき回廊美術館」を開館した現代アートのスーパスター葵國強(さい・こっきょう)さんと、福島県いわき市出身で会社経営者の志賀忠重(しが・ただしげ)さんの交流と活動を描いたノンフィクションです。2018年に第16回開高健ノンフィクション大賞を受賞しました。

 葵さんは中華人民共和国の出身でニューヨークに在住しています。火薬を用いた絵画やパフォーマンスを手がけ、これまでヒューゴ・ボス賞や金獅子賞など多くの賞を受賞しています(ウィキペディア)。1988年に葵さんが福島県のいわき市内で個展を開催した時に初めて志賀さんと出会って以降、二人の交流が始まります。

 いわき市内に住む志賀さんも、東日本大震災が発生しさまざまに被害を受けますが、持ち前の情熱で奮起し1か月が経過した頃に、悔しさの中で山に桜の木を植えたいと思うようになります。炊き出しで車を走らせていた時に、ふと山を見ると桜の花が目につき、怒りや苦しみが和らいだことがきっかけでした。猪突猛進型の志賀さんはすぐに「いわき万本桜プロジェクト」を立ち上げ行動し始めます。

 一方、葵さんが福島を訪れたのは震災の翌年の5月ですが、志賀さんからのプロジェクトの話に賛同しないわけはありませんでした。こうして、震災発生から2年後に「いわき回廊美術館」が開館します。

 開館式で志賀さんは以下に挨拶しました。
 私たち日本人全員の意志で原発を利用し事故を起こした為に、未来の子供達へ負の遺産を残してしまうことになってしまいました。これは永年にわたる放射能の身体への影響、永く使えない土地、そばにいきたくない地域を残してしまうことなのです(中略)。
 春、桜の花が満開に咲いているのを見て、20年後、30年後の未来の子供達に、山一面の桜の木を見てもらえるようにしようと思いたちました(中略)。飛行機から見ても分かるくらいたくさんの思いを込めた木を植えたいです。

 そして、数年後の志賀さんの誕生日に葵さんは絵をプレゼントし、こう言います「人は雲に触れることもできる」。そう、人生という旅路のなかで、人は空を飛ぶことも、氷の海を歩くこともできる、空をゆく巨人に、桜の山々を見せてあげることも。生を受けてから死ぬまでの束の間をどう歩むかは自分次第――(川内有緒)。

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