Book64.「なぜ走り続けるのか、限界に挑み続けるのか。書籍版『激走!日本アルプス大縦断2018』と前人未到のレース4連覇『山岳王 望月将悟』の凄い生きざま」

 

  なぜ山に挑み、走り続けるのか
 ゴールデンウィークの連休中は晴れた日もありましたが、晴れていたかと思うと急に雷が鳴って雨が降り出したり、何か初夏の気候を思わせる日もありました。最高気温は25度と既に夏日もありましたが、日差しが強くなると紫外線の量は真夏の量と変わらないといいますから、既に夏ですね。

 人の行動が活発になる時期でもありますが、連休中は海や山に出かけた人も多いのではないでしょうか。天野の知り合いにも山登りを趣味としている人がいます。この人は若い時からボクシングをやったり中米やアフリカ、アジアなど世界中に旅に出かけたりしていましたが、家庭での子育てが一段落してからは、山登りと水泳を始めました。
 
 昨年は甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山、富士山などを登頂し、今年も既に本登山に向け、トレーニングを兼ねたいくつかの山々に登頂しています。本人は「山を登るのはきついけど、シカやサルと遭遇したり、山小屋で見知らぬ登山者と話したりする。齢55歳になってできる、負荷のかかった旅なんだね」といいます。
 

   市民が趣味とするスポーツでは登山やゴルフ、そしてマラソンは愛好家が多いジャンルだといえます。それだけ長年にわたり継続できるというのが、長く支持される理由かも知れません。
 また、最近は野球やサッカー、ボクシングなどのプロスポーツでも以前と比較すると、プレー期間を長く維持できる選手たちも増えています。個人の努力と才能次第で体力や体質は向上、維持できるということを証明していますね。
 
 市民が参加するスポーツの中でマラソンやトレイルレースは一時期の爆発的なブーム以降、その人気は衰えていません。
 山中を走り続けるトレイルランは日本で注目されるようになって日は浅い方ですが、マラソンがブームとなって以降、比例するように急速に参加者が増加しました。天野もマラソンを走っている頃にはトレイルランにも取り組んでいました。個人的には山中を走るトレイルランの方が好きでした。だから、現在もトレイルランに関した本や雑誌は購入することがあります。
 
 8日以内に走行距離415キロの日本アルプスを縦断する過酷なレース
 今回に紹介するのは、「激走!日本アルプス大縦断~2018終わりなき戦い~」(斉藤倫雄&NHK取材班著 集英社)です。2018年8月11日から19日まで8日間にわたって開催された日本一過酷な山岳レース トランスジャパンアルプスレース(以下TJAR)についてまとめられたノンフィクションです。
 

   レースは富山湾からスタートし北・中央・南アルプスを縦断し、駿河湾がゴールとなる415キロを走破します。累積標高差は2万7000メートルで富士山登頂7回分、制限時間は8日間で賞金、賞品は一切ありません。2018年10月27日にNHKのBSプレミアムで同レースの特集番組が放送されましたのでご覧になった方も多いのではないでしょうか。(DVDは2019年4月に発売
 
 TJAR は2006年から2年ごとに開催され昨年が7回目となりました。既に半年以上前に開催されたレースで、昨年10月にはテレビ放送されたものをなぜ今、書籍で紹介するのか。書籍には映像では知ることのできない、選手一人一人のレースに賭ける想いや精神状況、エピソードなどが詳細に綴られているのです。
 
 このレースがどれだけ凄いレースなのか。参加資格を見ただけでも分かります。過去70キロ以上のトレイルランニング・レースを完走していること、過去標高2000メートル以上の場所において10泊以上の露営経験があること。TJARを想定した行動時間15時間後、標高2000メートル以上で4回以上のビバーク経験があること。フルマラソンを3時間20分以内、あるいは100キロマラソンを10時間30分以内に完走できる記録を保持していること。
 
 そして「すべての責任は、自己に帰結すること」を自覚して行動できること・・・・です。山岳自体がベテランや熟練者でも命を落としてしまう非常に危険なものであり、トレイルレースはその過酷さから、より命を落とす危険が十分にある得るレースからきている参加資格条件なのです。撮影スタッフもTJAR出場経験者です。
 
 前人未到のレース4連覇を達成した望月将悟選手
 レースには28歳から58歳までの参加資格を通過した30名が出場しました。中でも注目されたのが、前人未到のレース4連覇(2010年から16年)を達成した望月将悟選手(40歳)です。このレースで望月選手は18キロの食糧を持参し、全ての食事を無補給で走破することを課したのです。この重荷がいかに負担になるかは、十分にトレーニングを積んできた望月選手とはいえ、実際のレースに出るまで予想できませんでした。苦戦を強いられたのです。
 
 1日目からザックが重くのしかかり、前に進めない状態が続きました。4日目の南アルプス市野瀬では11位、ここには妻と娘が応援に駆けつけてきました。しかし、望月選手の表情は硬いまま、家族も近づきがたい雰囲気でした。望月選手はやがて腕で顔を覆い涙を流します。TJARはこんなレースだったのか・・・過去の経験と目の前の状況が混じり合う中で涙があふれたのです。
 
 レースの8日間では、かつての望月選手がそうだったように睡眠時間が2~3時間で走破する選手もいます。ほとんどの選手が、その過酷さと睡眠不足から幻覚を見たり幻聴を聞いたりするのです。もちろん体調も悪くなります。
 

 しかし、4連覇を成し遂げている望月選手には底力がありました。以後、何とか持つ直ししつつ、5日目の8月16日に南アルプスの塩見岳(長野県)では、3人を抜いて10位から7位に順位を上げます。死の淵に立ちながらも、ぎりぎりのところで均衡を保ち踏みとどまりながら、走り続けてきた望月選手は7日目16時7分、7位で無事にゴールしました。
 
 消防士と山岳救助隊員を兼務する仕事
 この超人ともいえる望月将悟選手とはどんな人物なのでしょうか。
 天野もいつか発表されるだろうと期待していた本が昨年に発売されました。「山岳王 望月将吾~強くてやさしい本物の山男ここにあり~」(松田珠子著、山と渓谷社)には、望月選手の学生時代や家族、山岳救助隊としての仕事、そしてTJAR4連覇への道程が詳細にまとめられています。


 

   望月選手は静岡市内の消防署に勤務する消防士で山岳救助隊員も兼務しています。消防署に勤務し始めた頃から山岳レースに出場するようになり、2006年の北丹沢12時間山岳耐久レースで優勝したのをきっかけに、トレイルレースで優れた成績を残すようになりました。
 
 今までにも実際に人の命を救ってきた仕事の山岳救助隊について望月選手は以下に述べています。「人の役に立ちたい、と消防に入りましたけど、体力も生かせるこの仕事は、自分に向いているなと思います。山岳救助隊になって、山に詳しくなればなるほど、鍛えれば鍛えるほど、その知識や体力を仕事に生かすことができる(中略)。トレイルランニングとかTJARをやるようになって、仕事に直結していることを感じると、山を走っていてよかったなと思います」 

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