Book76.「『世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器』アメリカ、ロシア、中国、北朝鮮、イランの次世代戦争とは」

安倍首相がイラン訪問中にホルムズ海峡で砲撃された日本タンカー

 6月14日に気になる海外ニュースが報道されました。前日に安倍晋三首相はイランの最高指導者であるハイメネ師との会談のためにイランを訪問しました。

   トランプ米国大統領によるイランへの経済制裁に関して、二国間を仲裁するための会談でしたが、同日にホルムズ海峡を渡航中の日本のタンカーが何者かによって砲撃されたのです。

 撃されたのはタンカー2隻です。1隻は日本の国華産業が運行する船で、ほか1隻は台湾のタンカーでした。日本のタンカーには日本人は乗船していませんでしたが、フィリピン人21人が乗船。砲撃で火災が発生しましたが、船員たちは救命艇でタンカーから脱出し、オランダ船に救助されたということです。

 16日時点では、イラン、アメリカ双方の発表や憶測情報は流れていますが、果たしてどこの誰がタンカーを攻撃したのか真実は分かっていません。

   ただ、5月にもサウジアラビアのタンカーがホルムズ海峡で攻撃を受けており、イランの関与が指摘されています。またホルムズ海峡は日本に原油を運ぶ重要な航路であり、エネルギー資源のほとんどを輸入に依存している日本にとっては重要なルートでもあります。

 今回の攻撃では死者は出ずにすみましたが、一方で日時、場所、タンカー攻撃位置など、この攻撃の正確さは、まさに一瞬で世界が終わりかねない状況も、簡単に生み出しうるということを証明しています。

  つまり、この地球上では常にいつ、どこで、誰が、何を何のために行うかを正確に把握している人たちが存在するということです。そして、なぜ、アメリカとイランが依然として敵対関係にあるのか。

この10年で世界中のサイバー攻撃が急増

 脅迫の度合いは違いますが、今回のタンカー攻撃と同じような、何かを示唆する脅迫的な攻撃はサイバーの分野でも起こっています。
 「世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器」(デービット・サンガー著、高取芳彦訳 朝日新聞出版)は、ニューヨークタイムズ記者で3度のピューリッツアー賞の受賞経験を持つ著者が現在、世界各国の首脳が最も脅威として挙げる世界間のサイバー攻撃について調査、検証しています。もちろん、アメリカとイランでもサイバー攻撃は収束の気配を見せていません。

 

 ホワイトハッカーやブラックハッカーの動きを見ても日本の環境も、世界の状況とはさほど変わらないことは理解できますが、国家間のサイバー攻撃は毎日、発生しています。

 それが大きなアクシデントとして表面化されないのは、トラブルが発生する寸前でストップされたり、小さな攻撃で収束されたりしているからに過ぎません。一歩、間違えば、処置が遅れれば・・・・・という緊張した状況は常に起こっているのです。

世界脅威評価」でサイバー攻撃の脅威が上位。アメリカとイランの関係も悪化

 アメリカの諜報機関の「世界脅威評価」報告書では、都市機能をマヒさせるサイバー攻撃から、国民の国家機構への信頼を失わせる高度な千渉工作まで、サイバー分野の脅威がリスト上位に入っています。

 サイバー戦争が拡大し始めるのは2008年です。発端はアメリカ国防総省のネットワークにロシアのハッカーが侵入したことでした。

   アメリカでは翌年にサイバー軍が創設されますが、今回、タンカー攻撃で注目されたアメリカとイランとの関係では、依然としてアメリカにとってイランの核開発がカギとなっています。

アメリカが核開発するイランにサイバー作戦を強行

 この核開発を壊滅させるためにアメリカはイランに対して、2006年から着手していた「オリンピック・ゲームズ」作戦を実行しました。しかし、この作戦は意外な展開を見せます。

 イランの核施設に送り込まれたワーム(自らを複製して増殖していくマルウエア)が2010年夏に施設の外に出て、世界中のコンピューター・システムで瞬く間に増殖。この時、イラン、ロシア、中国、北朝鮮など世界中のハッカーが、ワームのコピーを手に入れてしまったのです。

 しかし、コードを組み合わせてできる「スタックスネット」は、限られた条件を検知しなければ稼働しないものとして開発されていたことが幸いしました。一方でイランは「スタックスネット」について、アメリカに対して反撃を試みるようになります。

ランがサウジアラビアの国営石油企業のPCに侵入

 2012年にはイランはアメリカのガソリン供給源でもあるサウジアラビアを攻撃。ハッカーたちは世界最大の企業価値を誇る国営石油企業のサウジアラコム内部に入り、単純なパワーウイルスをコンピューター3000台とサーバー1000台にばら撒いたのです。世界中のアラコム事業所がネットワークから隔離されたことは言うまでもありません。

  このほか本著ではアメリカ、イギリス、ロシア、中国、北朝鮮のサイバー兵器による攻撃状況や戦術のほか、NSA(国家安全保障国)と元局員で国際的監視網を告発したエドワード・J・スノーデンの関係についても詳細に報告されています。
 

 国や企業はもちろん、個人ユーザーでも何かとトラブルが増えつつあるネット空間ですが、サイバー兵器による各国間の攻撃は、決して非日常の出来事でも、他人ごとでもないことを理解しておいた方がよいでしょう。

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