Book78.「『良い加減に生きる 歌いながら考える深層心理』〈あの素晴らしい愛をもう一度〉作詞の精神科医が伝える遊びとゆとり、人生の大切さ」

精神科医の2人が名曲を解説

「良い加減に生きる 歌いながら考える深層心理」の著者である、きたやまおさむさんと前田重治先生は二人とも精神科医です。九州大学で名誉教授を務めていたという共通の間柄で、いわば旧知の仲にあります。
 
 きたやまおさむさんは他に北山修、自切俳人などの別名も持ち作詞家や歌手としても活動しています。「あの素晴らしい愛をもう一度」「戦争を知らない子供たち」「帰って来たヨッパライ」・・・・などの名曲があり、「戦争を知らない子供たち」では1971年に日本レコード大賞作詞賞を受賞しています。
 
 この3曲は発売された頃には大ヒットとなりました。特に「あの素晴らしい愛をもう一度」は2015年に井上陽水さんがカバーしたほか、最近ではももいろクローバーZ、ナオト・インティライミさんがカバーしたことで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

   著書の中ではこの曲も含めて、数多くの歌を作ってきた、きたやまさんの歌詞の意味を、本人と前田先生自身の感想も含めて、精神科医の立場から解説しています。

 

「よい加減」にはほどよく、ゆとりの意味も

 著書タイトルの「良い加減に生きる」とは「いい加減」を意味します。このことについてきたやまさんは以下に書いています。「いい加減」に生きてゆけなくなっている昨今だからこそ、いまを生きるためのキーワードとして強調したいと考えています。
 
 総じて、「いい加減」は悪いものとしてとらえられ、多くがいい加減さを許さない、明確なものを求めています。しかし、日本語が示すように、「いい加減」は「良い加減」でもあります。そのことを知れば、視野の広がりと思考の柔軟性につながり、成長や健康、創造的な生き方や考え方に導かれる可能性がおおいにあるのです。
 
 一方で前田先生は「良い加減」について、ほどよく、適当に、自分の人生を自分らしく創ってゆくということで、「遊び」「ゆとり」という意味も含まれています。現代という先行きが不透明な時代に生きていくには、大事なキーワードだと述べています。 

いつかは失われる愛の存在、その悲しみを超えるために

「あの素晴らしい愛をもう一度」について、前田先生は次のように分析します。
 「あの愛」とは何でしょうか。愛とは、相手と心が深く結びついていて、いとおしくて、かけがえのないと思う心です。そうした愛を失った時の悲嘆は大きいものです。
 

 家族も兄弟も夫婦もいずれ別れていく運命にあります。戦争や災害、病気などでも大切な愛を失ってゆくものです。その悲しみや辛さを乗り越えるために、言葉にして表現する方法があります。

 「あの素晴らしい愛をもう一度」とくりかえして力強く、大きな声で歌われることによって、その願望が満たされたような明るい気分にもなってきます。
 
 作詞のきたやまさんは、こう書いています。「移行対象」(精神分析の幼児が母親から離れてゆく移行期に見られるそれぞれ相互の代理物で、乳幼児が肌身離さないもの)の話になるのですが、歌詞の中の「同じ花を見て/美しいと言った二人」の「花」は二人が共有した移行対象です。

 同じ花を見ている「心と心」というのは、昔から日本人が愛し維持し続けてきた移行的な形です(中略)。二人は美しいと言っているのだけど、それはやがて終わってゆくものだという、愛の成立と終焉にかかわる普遍的な物語を歌っているのです。

精神分析から学んだ遊びの大切さ

 きたやまさんがロンドンで精神分析を受けている時に生まれた「題名のない愛の唄」については、精神科医としての活動と歌手としての活動の中で葛藤を抱えていた当時、「プレイ」という言葉に出会ったエピソードを挙げています。
 
 「プレイ」には子供の遊びもあるし、野球選手もプレイヤーといいます。「遊び人」という悪い意味にも、肯定的な意味をもたせる英語を魅力的だと感じるのです。

   精神分析は性や遊びを創造的に生かすのが人生における実践であり、それについて考える学問ですが、遊びながら知的に考えることの大切さを学んだというのです。

苦しみ悩み多い人生でも歌うことで前向きに

 また、第2章「日常的創造性の自己分析」で、きたやまさんは順風満帆に見える自分の人生でも、苦しみや悩み、不安や憂鬱と痛み、挫折と失敗、葛藤の多い人生だということを吐露しています。

 特に「ザ・フォーク・クルセーダーズ」で活動を共にした加藤和彦さんの自死については、今でも傷痕がうずき続けるといいます。辛い経験も多いですが、どんなことにも嫌な意味や悪い意味がありながらも、それを独りで悩んだり、逆に紛らわす空間があることが幸いしていると書いています。
 
 前田さんは「きたやまおさむの歌」について、愛することの悦びと悲しみを歌ったものが多いが、「あの素晴らしい愛をもう一度」のように、失われたものを悲しんでいるだけでなく、将来への希望につながるような、前向きな姿勢が見られるのが大きな特徴だとまとめています。

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