Book82..「『地球をめぐる不都合な物質』化学物質による地球汚染の深刻な実態」

地球規模で深刻化する化学物質による汚染

 現在、化学物質は我々生活の中で10万種類が使用されているといわれています。
 「地球をめぐる不都合な真実~拡散する化学物質がもたらすもの~」(日本環境化学会編著、講談社)は、POPs(残留性汚染物質有機塩素系農薬DDTなど)、マイクロプラスチック、PM2.5、水銀などの化学物質が現在、地球でどのように放出、拡散され、ヒトや野生動物にどのような影響を与えているかを調査、報告したものです。

 また、新たな問題として中国やアジア諸国が発する化学物質で影響を受けている日本列島の「越境汚染」の現状についても書かれています。まず我々の生活に身近な物質から検証してみましょう。
 

石油で作られるプラスチックが魚類の体内に

 例えばコンビニのレジ袋、ペットボトルおよび蓋、弁当箱、お菓子のパッケージなどからはプラスチックゴミが出ます。この中で代表的な物はレジ袋で、日本では全国で年間約300憶枚ものレジ袋が消費されています。これらプラスチックゴミは正しく処理されていれば海には入ってきません。日本はリサイクル率が高い国とされていますが、ペットボトルのように使用量が大量になると大量のプラスチックゴミが排出されてしまいます。
 
 正確に処理されないこれらの放出物は風で川に流れ海へと放出されます。現在、北大西洋還流、北太平洋還流、インド洋還流などが流れる世界の海には、50兆個以上のプラスチックが漂っているとされています。このプラスチックを海鳥やクジラ、ウミガメなどの生物が餌と間違えて食べたり誤飲してしまうのです。
 
 プラスチックより小さなマイクロプラスチックに関しては、イワシ、二枚貝、ゴカイ、カニなどの体内に入っていきます。プラスチックは石油から合成されているもので、油としての性質は失われません。一方、POPsは油に溶けやすい性質を持っていることから、プラスチックにどんどん吸収されます。このようにプラスチックは、水中で有害な化学物質を吸着することで、どんどん有害化していくのです。
 

増える花粉症やアトピー性皮膚炎の原因は・・・

 また、先進国中心に増加傾向の喘息やアレルギー性鼻炎(花粉症)、アトピー性皮膚炎については、「遺伝的要素の変異説」「衣食住などのライフスタイルの変化」に加え、環境変化によって発生する化学物質による曝露が増加原因であることを指摘。マウスにプラスチック製品に含まれるフタル酸ジエチルヘキシルを投与すると、アトピー性皮膚炎を増悪させることや、樹脂などに含まれるホルムアルデヒドなどの化学物質によって、皮膚や粘膜が悪化したり、頭痛や倦怠感などの病状が出ることを報告しています。
 
 これらアレルギー性の炎症の要因には免疫系の破綻を挙げ、中でも母乳中の有害化学物質が免疫寛容を破綻させることを報告しています。食品ではマグロやアナゴ、イカで検出が確認されているダイオキシン類では、減少傾向にある筈の物が、母乳を飲む乳児の曝露量が一生で毎日摂取しても安全な目安の15倍となっているケースがあるなどを指摘。実験結果ももとにしながら、この時期の化学物質の曝露がリンパ組織の成熟、分化などに異常をきたし、その機能亢進などによって、免疫性疾患の発症リスクを高める可能性があるとしています。
 

新たな問題、日本を襲う「越境汚染」とは

 近年、アジアの経済成長は急成長しています。高度成長期の日本と同じ状況にあるのです。つまり、日本では既に沈静化した公害が発生しているのです。この公害が日本に影響しているのが「越境汚染」です。例えば、アジアGDP1位の中国では1次エネルギーの70%を石炭に依存しています。石炭からはヒ素が発生するのですが、これが西日本の大気中にも存在するようになっているのです。ヒ素は猛毒で人体への影響もある物質です。この中国の公害はさまざまな形で日本に影響を及ぼしているのです。
 

まとめ(ブログ筆者コメント) 環境汚染で拡大する災害と新たな病
 

 6月29日から鹿児島県の同市内、南九州市、霧島市、姶良市、日置市などを中心に襲った大雨は7月4日ごろまで続き、この間の3日間で7月1か月分の降水量となりました。土砂崩れにより家が崩壊してしまうなど被害は甚大で196万人に避難勧告が出されたのです。 ほぼ同じ時期の昨年7月5~8日にかけては岡山県の真備町中心に西日本豪雨が発生、死者61人、住宅被害は4216棟が全壊する(岡山大学 前野詩朗水工学委員会)という大惨事となりました。
 
 数十年前までの日本の気候からは予想もできない大雨が降り出して久しいですが、なぜ、このような映画で観るような異常なシーンが常態化してしまったのでしょうか。既に2006年当時のアメリカ副大統領だったアル・ゴア氏はドキュメンタリー映画「不都合な真実」で、世界中で温室効果ガスである二酸化炭素の放出量が増大し、地球規模の気候変動が発生していることを警告しました。発表されてから既に10年以上が経過していますが、地球を取り巻く環境は好転したのでしょうか。

 
 同じような問題が化学物質でも顕在化しており、現状が今回に取り上げた著書でもまとめられています。進化している筈の人類社会では、経済が伸長しつつある発展途上国はもちろん、先進国といわれる国でさえ解決しえない問題が山積しています。

 それは数十年前までは経験したことのない災害が規模を拡大し顕在化したのと同じように、人やさまざまな領域に生息する生物に発生する、新たな病という形で表面化しているのです。
 
 アメリカの生物学者・レイチェルカーソンが「沈黙の春」を発表したのは57年前のことです。以降、人に有害な農薬であるDDTの使用は制限されるようになりました。日本では水俣病の原因となったメチル水銀のような重い病は現在はなくなりました。しかし、「地球をめぐる不都合な物質」でも報告しているように、幼児に対して発生する魚類などの食品を通じた水銀の被害は、現在も存在するということを忘れてはいけません。

 
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