Book&Manga73.「冒険、バトル、歴史浪漫、狩猟、グルメありの漫画を解説『アイヌ文化で読み解く《ゴールデンカムイ》』」

17巻発売時点で発行部数が900万部のベストセラー

 読み進めていくうちに、いつのまにか不思議な世界に先導され、極太のエンターティントに魅かれているということがあります。漫画「ゴールデンカムイ」(野田サトル著、集英社)は圧倒的な支持を得て、現在まで17巻が発売され発行部数は900万部を突破、昨年には手塚治虫文化賞大賞も受賞し、アニメ化もされ放送されています(18巻は6月19日、19巻は9月19日発売予定)。

 
 主人公の杉元佐一は日露戦争の帰還兵で「不死身の杉元の異名」があり、ヒロインのアシリパは、さまざまなバトルで何度も危機的な状態に陥る杉元を助けながら、アイヌの生活や文化を教えます。白石由竹は網走監獄の死刑囚でしたが脱走し杉元らと同行、ほかに新選組の一人として有名な土方歳三も登場します。
 

不死身の主人公名は屯田兵だった曽祖父の名から
 

 この漫画の主人公・杉元の名前は作者で北海道出身の野田サトルさんが、日露戦争で屯田兵だった曽祖父の名前からとったと言われています。主人公は作者の曽祖父に近い存在であることは予想されますが、なぜ、このようなインパクトのある物語や絵が描かれるのか不思議でなりません。
 
 もちろん漫画家は普通の感覚の持ち主ではありませんね。しかも、明治時代末期の北海道の樺太が舞台で大自然、野生動物、狩猟、グルメ、埋蔵金探し、アイヌ、神話など豊富なテーマが盛り込まれているのです。

 そこでは人間同士や動物との生死を賭けた激しいバトルも生じ物語はスリリングに展開します。ある意味では、デジタルが隆盛を極める現在とは対照的な、想像を超えた世界が目の前に広がるのです。
 

漫画内のアイヌ語の監修者が分かりやすく解説

 

 「ゴールデンカムイ」17巻とほぼ同時期に発売された「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(中川裕著、集英社新書)は、同漫画のアイヌ語の監修者で千葉大学文学部教授である著者が、アイヌとはどんな人たちで、どのような生活をしていたのかについて解説しています。漫画の各シーンをもとに解説しているので、読者にもより分かりやすい内容となっています。

 
 まず「ゴールデンカムイ」の「カムイ」については、「神」と思われがちですが、アイヌでは犬や猫、カラス、木、皆がカムイで、「アイヌ(人間)」は「カムイ」とよい関係をきづくことで幸福な生活が保たれるとしています。
 
 また各コミックスの表紙カバーの袖に書かれている「カント オㇿワ ヤㇰ サク ノ アランケブ シネブ カ イサム」は「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」という意味で、すべての「カムイ」は天からやってくることを意味しています。
 

アイヌは人間、カムイは神、オオカミは人間の守護神
 

 2巻13話のエピソードではアシㇼパたちが捕ってきたカジカを、祖母が手にとって首の後ろに回す場面について解説。これは首の後ろの「ぼんのくぼ」にいるトゥレンペ(憑き神)を見せているのだとアシㇼパが説明しています。アイヌだけでなく、人間だったら誰にでも憑いているもので、人間の運命や行動をある程度制御している存在です。
 現代の言葉でいえば「無意識」とか「意識下」と呼ばれるもので、アイヌはずっと以前から、そういうものを自分たちの世界観の中に位置づけてきたのです。
 
 また「ゴールデンカムイ」では、オオカミが重要な意味を持っています。物語の最初ではエゾオオカミの最後の生き残りである純白の毛皮のレタㇻが活躍していました。アシリッパが危機に陥るとどこからともなく現れて彼女を救うのです(そういえば、17年前に山間部で天野も同じような経験をしたことがあります)。
 

 これはまさにアイヌ信仰にある、セレマク(守護神)そのものなのです。セレマクとは「背後」ということですが、背後からいつも見守っていて、いざというときには助けてくれる存在だということです。
 さて、コミックス17巻では杉元らが北樺太の監獄所を目指す途中で、さまざまな困難に遭遇しながらも何とか命拾いをします。ますます今後の展開が期待されます。